【視察レポート】麻布台ヒルズに学ぶ、“育てる都市”という発想― 国家戦略特区 × タウンマネジメントの先進事例から ―

中央広場にて。左から柏原、串田、大山、いそべ

■ はじめに

2025年春、私たちは東京都港区に誕生した大規模複合開発「麻布台ヒルズ」を視察しました。
この街は、開発主体である森ビル株式会社が掲げる「Vertical Garden City(立体緑園都市)」という都市理念のもと、再開発事業を通じて“人が主役の都市空間”の実現を試みた、国内屈指の事例です。

視察では、緑と都市機能が融合した空間構成、建物の可変性とタウンマネジメントによる都市の「育て方」、国家戦略特区の制度的な支援体制など、多岐にわたる要素について学ぶことができました。

本レポートでは、この視察を通じて得た知見を体系的に整理し、今後の政策立案や都市戦略に活かすための視点をご紹介します。


■ 麻布台ヒルズの概要と構成要素

  • 開業:2023年11月
  • 所在地:東京都港区麻布台一丁目・六本木一丁目 ほか
  • 開発面積:約8.1ha
  • 主塔:地上64階、高さ約330m(日本一の高層ビル)
  • 開発主体:森ビル株式会社
  • 設計監修:トーマス・ヘザウィック(英国)
Aタワー33階より神谷町方面を望む

◯ 主な複合機能:

  • 住宅、オフィス、教育(インターナショナルスクール)、医療(慶應義塾大学予防医療センター)
  • 商業(ヒルズマーケット)、文化(ギャラリー・彫刻等のアート機能)
  • 広場、公開空地、屋上緑化、遊歩道等の緑地空間

◯ 特徴的な指標:

  • 緑被率:39.3%(港区平均22.6%の約1.7倍)※森ビルがこれまで開発してきた開発面積を対象とした数字
  • **「GREEN × Wellness」**をコンセプトに、都市と自然、人と健康の融合を目指す設計思想

■ 森ビルの都市戦略:「Vertical Garden City」の思想

森ビルは都市再開発を「都市の再生」ではなく、「都市の創造」と位置づけてきました。
その核心が、「Vertical Garden City(立体緑園都市)」です。これは、都市の中心部に職・住・遊・学・医・文化・商をコンパクトに重層配置し、徒歩で暮らせる街をつくるという発想に基づいています。

同時に、建物の内部構成に可変性を持たせ、都市の“鮮度”を維持できる設計としたことも特徴の一つです。
さらに、「作って終わり」ではなく、街を“育てる”タウンマネジメント体制を整備し、イベント開催やテナントとの関係構築を通じて、常に人が行き交う都市空間を維持しています。


■ 国家戦略特区の制度的後押し

麻布台ヒルズの実現には、国家戦略特区の指定が極めて大きな役割を果たしました。

◯ 国家戦略特区とは?

安倍政権下で創設された「岩盤規制改革」を目的とした制度で、特定の地域において規制緩和、税制優遇、手続き迅速化を進め、民間投資を後押しする仕組みです。

◯ 東京の特区指定(2014年~)

  • 特別区域会議を通じ、国・都・区・民間が連携
  • 建築規制や用途制限の緩和、国際人材の受け入れ促進(ビザ緩和等)
  • 英語教育、医療ツーリズム、建築基準法の特例適用等も制度化

◯ 麻布台ヒルズの事例

  • 約30年かけた合意形成が、特区制度の後押しにより加速
  • 高さ規制の緩和や公共空間整備の支援を通じて、大規模複合化を実現

■ GPCI(世界の都市総合力ランキング)との接続

視察の中では、森記念財団が毎年発表する「Global Power City Index(GPCI)」との関係性にも注目が集まりました。

東京は2024年時点で世界3位の都市と評価されていますが、以下のような課題も存在します。

分野順位課題
経済10位GDP成長率の低迷、スタートアップ支援の不足
環境18位緑地率の低さ、再エネ比率の課題
居住6位高住宅費、子育て環境の未整備
交通5位国際直行便の少なさ、多言語対応の遅れ

麻布台ヒルズのような「都市全体の統合的再構成」によるプロジェクトは、東京の評価向上にも資する好例といえます。


■ 麻布台ヒルズの都市価値創出モデル

この街は単なる高層ビルの集合ではなく、「暮らしの質の向上」と「都市の成長戦略」が融合されたモデルとして、以下のような要素を内包しています。

  • インターナショナルスクール誘致による国際性の強化
  • アート機能(ギャラリー・彫刻)による文化発信
  • 地域住民も利用可能なヒルズマーケットによる日常性の確保
  • 慶應義塾大学予防医療センターによる都市型ヘルスケア拠点の形成

■ 今後の都市政策への示唆

都市を成長させるには、制度の力と人の構想力・実行力が両輪で必要です。
また、GPCIのような都市総合力を可視化する指標を用いれば、都市の強みと弱みを客観的に把握し、より戦略的な都市政策が可能となります。

再開発=床を増やすことではなく、都市に新しい意味と価値を与えることである――
今回の視察を通じて、その考えを改めて深める機会となりました。


📝 おわりに:まちは“人”がつくる

都市づくりにおいて最も大切なのは、制度や設計図ではなく、それを活かし街の未来を描く“人”の存在です。

誰かが構想し、誰かが実行し、誰かがその街を語る。
麻布台ヒルズの成功は、その好循環が生まれたからこそ実現したと感じます。

この視察で得られた気づきを、横浜での都市政策や地域づくりに活かしてまいります。

タワープラザ・森JPタワー 33Fにて

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