【視察報告】阪神・淡路大震災からの教訓と未来志向の財政運営 ― 神戸市の財政政策を学ぶ(2025年6月25日)
我々、日本維新の会横浜市会議員団・無所属の会は、2025年6月25日に神戸市の財政政策を視察しましたので、以下ご報告いたします。
はじめに
阪神・淡路大震災から30年を目前に、神戸市は震災による莫大な財政負担を乗り越え、持続可能な都市財政への道を歩んできました。
今回の視察では、震災直後の財政対応から始まり、現在の健全化政策や将来投資に至るまで、財政運営の歩みと課題を学ぶ貴重な機会となりました。
阪神・淡路大震災における財政状況の概要
🔶 総被害額
- 約10兆円(政府試算)
- 住宅被害:約3兆円
- 産業・経済被害:約7兆円
🔶 国の財政支援(累計:約16兆円)
分野 | 内容 | 金額(概算) |
---|---|---|
社会資本復旧 | 高速道路・港湾・空港・鉄道等のインフラ再建 | 約2.5兆円 |
住宅再建支援 | 公営住宅建設、仮設住宅供給など | 約1.3兆円 |
中小企業支援 | 融資制度や税制優遇 | 約0.5兆円 |
総合復興基金(兵庫県) | 国2/3、県1/3負担で創設 | 約3,000億円 |
※当時は被災者生活再建支援法が未整備(1998年に制定)
🔶 神戸市の財政負担と対応
- 仮設住宅、インフラ、瓦礫処理で1995年度に災害復旧費約3,000億円
- 市債発行が激増(震災で倍増し、ピーク時に約1兆円)
- 緊急的に5000億円超の財源対策(市有地売却、基金取り崩し、職員給与カット)
- 震災関連事業:2.8兆円のうち、市債が5割超、一般財源12%、国庫3割程度
視察内容
1.震災後の財政健全化と教訓
神戸市は、震災直後に急激に膨らんだ市債残高の償還に向けて、行財政改革を本格化させました。特に、国庫支出の限界を補うために、自主財源である地方債を積極的に活用しながらも、長期的な財政負担を見据えた戦略的な対応が進められました。
2.長期的な財政戦略と健全化指標
2007年に信用格付けAAを取得し、現在はAA+に格上げされるまでに財政の健全性を回復。他の政令指定都市と比べても、健全化判断比率において安定した水準を維持しています。

3.歳出の抑制と投資の選択
震災後、社会保障費(扶助費)の増加に対応するため、人件費や公債費を抑制する努力を重ねてきました。一時は大幅に抑制された投資的経費も、都市再開発などを背景にR7年度には1,000億円を超える水準に回復し、選択と集中の姿勢が伺えます。

4.中長期財政見通しと課題
直近10年間で累計1,200億円の収支不足が見込まれており、持続可能な財政運営への課題が浮き彫りになっています。
一方、三宮再開発や駅のリノベーションなどによって民間投資を呼び込み、新たな税収確保の流れをつくろうとしています。
5.税収確保と都市型経済の育成
都市部の再開発や民設民営アリーナ(GLION ARENA)、神戸空港の国際化など、都市型税源の創出に取り組んでいます。

これにより、税収を市民サービスに還元する「税源涵養型」の好循環の実現を目指しています。
6.行財政改革と組織の見直し
1995年に22,000人いた職員数を、2025年には13,000人台まで削減。全国平均の14%を大きく上回る38%の減員は、市政のスリム化と民間活用を進めた象徴的な取り組みです。いわゆる官製ワーキングプアなどを発生させないよう、単に職員数の減少にばかり目が行かないように留意も必要です。
また、事務事業評価に基づく毎年の予算見直しも定着しています。
7.森林・緑地政策と「こうべ木陰プロジェクト」
倒木事故などを契機に、緑地・樹木の安全管理と活用のあり方が見直されています。副市長をトップとする森林政策推進本部の設置、企業との連携による「木陰プロジェクト」など、緑と都市政策の融合が進んでいます。

8.区政と自治体運営の変化
各区が担う事務事業の査定は区役所課が担っています。ただし、予算規模が小さいため、今後の地域主権・分権の観点でさらなる改革が期待されると感じました。
財政政策に関する質疑応答(抜粋)
Q1. 阪神・淡路大震災以降の財政危機からの脱却は?
A. 市債残高がピーク時に1兆円を超えるなど深刻な状況だったが、選択と集中・行財政改革によって健全化を進めてきた。
Q2. 財政健全化に向けた主な方策は?
A. 土地売却や人件費削減、事業の統廃合を推進。職員数は38%削減(全国平均14%を大きく上回る)
Q3. 現在の財政運営の評価体制は?
A. 外部有識者による評価や、財政健全化指標の導入により客観的な監視体制を整備
考察・気づき
神戸市の財政運営からは、大災害からの立ち直りにおいて必要な「柔軟性」と「戦略性」を強く感じました。
- 災害復旧は単なる原状回復ではなく、将来に耐える都市基盤と財政の構築が必要
- 将来負担比率の改善や市債発行の縮減など、財政健全化に向けて継続的な努力がなされてきたが、一方で都市基盤整備に向けた積極的な投資も必要であるという認識に基づき、都市政策を進めている点も確認できた
- 民間投資を喚起し、税収を向上させ、それを市民サービスに還元するという好循環を目指す姿勢は、横浜市においても大いに参考になる
- 人口減少局面における郊外部のまちづくり、主要駅のリノベーションによる街の活性化、民間投資の喚起などの取り組みは横浜市でも参考になる
- 緑の乏しい都心に緑を増やす取り組みを積極的に推進する一方で、緑の多い地域では公園を森に返す、街路樹はあえて植えない(伐採する)といった発想も、非常に参考になる

右から、柏原すぐる、くしだ久子、坂井ふとし、大山しょうじ、いそべ尚哉