【視察報告】大阪中之島美術館について 2024年8月7日
視察の目的
大阪中之島美術館は、施設整備を公共で行い、民間事業者が経営に直接携わるPFIの手法を導入し、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)における公共施設等運営事業を日本の美術館として初めて導入した施設です。
今回は、経緯や効果等を学ぶために視察を行いました。
視察先
- 視察場所:大阪市役所及び中之島美術館
- 説明担当者:経済戦略局文化部博物館支援担当
視察内容
- 施設整備を公共で実施し、運営にPFI手法を導入する方針を決定した経緯
- 開館後の来館者数等の美術館の運営状況
- 現在の事業への評価と今後の展開
- PFI手法を導入したことによるメリットやデメリット
- 美術館の地域や観光振興に関する役割
当日はその後に美術館の現地視察も予定していたため(17:00閉館)質疑応答の時間はとれませんでした。
展示会
現地では2つの展示会が開催されていました。
1. 醍醐寺国宝展
京都市伏見区に位置する醍醐寺は、平安時代前期の貞観16年(874)に理源大師聖宝(りげんだいししょうぼう)によって開創されて以来、真言密教の拠点寺院として、歴代の皇族や公家、武家の信仰を集め歴史の表舞台において重要な役割を果たし、醍醐山山上(上醍醐)と山裾(下醍醐)の二つの伽藍からなる醍醐寺は、山の寺としての性格を持ち、国家安泰や祈雨など種々の祈願の場として、また江戸時代初期からは修験道の拠点寺院として発展。
展示は、「山の寺 醍醐寺」「密教修法のセンター」「桃山文化の担い手」の三つの章に加えて、醍醐寺の特徴を紹介するコーナー展示「秘法継承」「密教法具一神秘の造形」「修験の寺」「引き継がれる聖宝の教えー顕密兼学の精神」「醒醐寺の近代・現代美術」を設け、醍醐寺に伝わる国宝14件、重要文化財47件を含む約90件の宝物を大阪で初めて大規模にご紹介。
秀吉や北政所が愛した桜にまつわる寺宝も展示され、その歴史と美術を展観する貴重な機会となりました。
2. 木下佳通代展(没後30年)
木下氏の作家としてのキャリアは、60年代、前衛美術の集団「グループ〈位〉」の活動に携わったことから始まり、70年代には、写真を用いながらイメージと知覚、物質の関係を考察する作品を数多く手がけました。
その極めて理知的なアプローチは、同時代のコンセプチュアル・アートの世界的潮流と呼応しており、ヨーロッパでも高く評価されました。
80年代には、抽象絵画へと表現の軸足を移し、一筆ごと一筆ごと、自らの感覚を鋭く問いながら作り出された絵画は高い緊張感を備えており、表現の集大成とも呼べるものです。
本展は過去最大規模の木下の個展となり、ごく初期の作品から、代表作、そして絶筆にいたる木下佳通代の活動を一堂に紹介し、今あらためてその表現の全貌に迫っています。
感想・考察(大阪中之島美術館の概要とコンセプト等)
大阪中之島美術館は、「民間の知恵を最大限活用しながら、顧客目線を重視し利用者サービスに優れたミュージアム」というコンセプトを掲げるとともに、大阪全体の都市魅力の発展・進化・発信のための重点取組にも位置付けられるなど、これまでにない新たな魅力を持った施設をめざしています。
そして、新たな手法として、民間事業者が経営に直接携わることで創意工夫が最大限発揮される、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)における公共施設等運営事業「コンセッション方式」を日本の美術館として初めて導入しました。これにより、「情報発信やイベントの開催などによる集客力の強化」「魅力的ある展示会の誘致」「官民連携による展開」など様々な効果に期待できると感じました。
また、先に美術館を建てることよりも、コレクションを充実させることに力を注いだとのことです。日本と海外の代表的な美術作品を核としながら、地元大阪での芸術活動にも目を向け、佐伯祐三を中心とする近代美術の作品、大阪と関わりのある近代・現代美術や近代・現代デザインの作品と資料を収集方針としており、大阪で育った芸術を大切にする方向性は観光にも寄与し、地域の芸術を発信していく姿勢は素晴しいと感じました。
開館までの経緯
- 1983年:大阪市制100周年記念事業の一環として近代美術館の建設が発表
- 1998年:大阪大学医学部跡地のうち南半分8,000㎡を購入
- 2003年:北半分8,035.22㎡を国から購入
- 2013年:中之島に新しい美術館を整備する方針を決定
- 2014年:「新美術館整備方針」を策定
- 2016年:施設整備は公共で実施し、運営にPFI手法を導入する方針を決定
- 2017年:基本設計実施、実施設計開始
- 2018年:正式名称「大阪中之島美術館」に決定
- 2019年:建設工事開始、地方独立行政法人大阪市博物館機構設立、PFI事業者公募
- 2020年:株式会社大阪中之島ミュージアムと公共施設等運営権実施契約を締結
- 2021年:建物竣工、市から機構へ建物出資
- 2022年2月2日:開館
大阪中之島美術館のコンセプト
- 佐伯祐三や吉原治良に代表される大阪が育んだ作家の作品を中心とした第一級の コレクションを活かし、国内トップクラスのミュージアムをめざす。
- 「大阪と世界の近現代美術」をテーマとしたミュージアムとして、市立美術館や 東洋陶磁美術館にはない、新たな魅力を創造する。
- 歴史的にも文化的にも豊かな蓄積をもつ中之島を拠点として、文化の振興や都市 の魅力向上に貢献する。
- 民間の知恵を最大限活用しながら、顧客目線を重視し利用者サービスに優れた ミュージアムとする
コレクション
- 作品数:6,151点(購入:1,155点、寄贈:4,996点)
- 評価額:約267億円(購入:約155億円、寄贈:約112億円)
大阪中之島美術館は、株式会社大阪中之島ミュージアムが運営し、館長及び学芸員は地方独立行政法人大阪市博物館機構から出向します。専門学芸員と民間のノウハウが融合することで、新たな美術館のあり方に注目していきたいと感じました。
作品紹介
代美術家ヤノベケンジ(1965〜)の近年の代表作となった彫刻作品《SHIP'S CAT》。 猫がモチーフの巨大なパブリックアートは、日本にとどまらず海外でも高く評価されています。大阪中之島美術館前には、2021年制作の《SHIP’S CAT (Muse)》が設置されています。本作には、《SHIP’S CAT (Muse)》が守り神として、さらに美術館が世界に発信するためのシンボルとなるよう願いが込められています。
執筆者:横浜市会議員 伊藤くみこ